「うちの息子は電車ばかり追いかけている」「娘は誰に教えたわけでもないのにお人形の世話をしたがる」・・・そんな姿を見て、男の子と女の子の遊び方の違いに驚いたことはありませんか。一方で、「男の子なのにおままごとが大好き」「女の子なのに車のおもちゃに夢中」というお子さんも珍しくありません。遊びの傾向には確かに性差が見られる一方で、それ以上に個人差が大きいこともわかっています。
この記事では、発達心理学の研究や国内外の調査をもとに、男の子・女の子の遊びの傾向と、その背景にある理由、そして個人差との向き合い方をわかりやすく解説します。「うちの子はどうして違うのだろう」と不安に思う必要はありません。正しい知識を知ることで、日々の育児がもっと楽になり、お子さんの個性を楽しめるようになるはずです。

男の子と女の子で遊びに差が出る理由
子どもの遊びの好みに性差が生まれる理由について、長年「しつけや周囲の環境の影響」と考えられてきました。
しかし近年の研究により、その背景には生まれる前からのホルモンの働きが関係していることがわかってきています。
胎児期のホルモンが遊びの好みに影響する
発達心理学を専門とする聖徳大学の相良順子先生によると、数十年前は、男女が好むおもちゃや遊びが異なるのは、環境の影響と考えられていました。
例えば、男の子は電車や車のおもちゃ、女の子はぬいぐるみなどを与えられることが多いため、それらを自然と好きになるのだろうと思われていたそうです。
ところが、ここ10年ほどの研究により、こうした性差は母親の胎内にいるときのホルモンの影響が大きいことがわかってきました。
胎内では妊娠8週目くらいから性別化が起こり、男の子は精巣がつくられると男性ホルモンが多量に分泌されます。
この胎児期の男性ホルモン(テストステロン)の分泌量の違いが、おもちゃや遊びの好みの差につながっている可能性があると考えられているのです。
興味深いことに、病気などにより男性ホルモンの影響を受けた女の子は、そうではない女の子より、男の子の遊びを好むことがわかっています。
脳の性差はあくまで「傾向」にすぎない
ただし、こうしたホルモンの影響を過大評価するのは禁物です。
杏林大学医学部の研究者による報告でも、男女は身体的、行動的に異なる傾向を示すが、この違いは遺伝子のみでは決定されないとされており、脳や行動における男女の差異は平均を見た場合にわかる程度のものであり、個体差によるばらつきを考えると重なる部分も多いことが指摘されています。
つまり、「男の子はこう」「女の子はこう」という傾向はあっても、それは集団全体で見たときの平均的な話であり、目の前のわが子に当てはまるとは限らないということです。
0歳から3歳の年齢別の遊びの傾向
実際に、月齢や年齢が上がるにつれて遊びの傾向はどのように変化していくのでしょうか。
ここでは0〜3歳の発達段階に沿って見ていきます。
0〜1歳ごろは性差よりも感覚の発達が中心
この時期は、視覚、聴覚、触覚などの五感を通して世界を認識し始める段階であり、男女の違いよりも一人ひとりの感覚の敏感さや興味の対象の違いのほうが目立ちます。
ガラガラを振る、布の感触を楽しむ、大人の顔をじっと見つめるといった行動に、性別による明確な差はほとんど見られません。
この時期に「男の子らしいおもちゃ」「女の子らしいおもちゃ」を無理に選ぶ必要はまったくありません。
1〜2歳ごろから好みの違いが芽生え始める
この時期になると、運動機能の飛躍的な発達が見られ、歩行が始まり、行動範囲が大幅に広がります。
歩けるようになると、車や電車を押して追いかける遊び、ボールを蹴ったり投げたりする遊びを好むお子さんが増えてくる一方で、ぬいぐるみや人形を抱っこしてトントンする仕草を見せるお子さんも出てきます。
ただし前述の通り発達のスピードには大きな個人差があり、同じ月齢でも、言葉の数や運動の得意・不得意、集中力の持続時間には差があるため、この段階での「らしさ」はあくまで参考程度に捉えましょう。

2〜3歳ごろは自我とごっこ遊びが発達する時期
2歳になると自我の芽生えと社会性の基礎が育つ重要な時期を迎え、いわゆる「イヤイヤ期」も始まります。
3歳に近づくとごっこ遊びは、役割や順番を学ぶよい機会となり、店員とお客、医者と患者などのやりとりを通して、社会的な言葉が自然に身につきます。
この時期になると、男の子はヒーローごっこや乗り物ごっこ、女の子はおままごとやお世話ごっこを好む傾向が保育現場でも報告されていますが、実際には性別に関わらずどちらのごっこ遊びも楽しむ子が多く、「男女どちらの遊びも経験させる」ことが発達の面でもプラスに働くと考えられています。
男の子に多く見られる遊びの傾向
統計的な傾向として、男の子に多く報告されている遊び方の特徴を紹介します。
体を動かす遊びや乗り物への関心
男の子は電車や車、ロボットなど動くものへの関心が高い傾向があり、体全体を使って走り回る、跳ぶ、登るといった活動的な遊びを好む子が多いとされています。
これは前述のホルモンの影響に加え、大きな運動(粗大運動)の発達スピードとも関係していると考えられます。
ケンカを通じて関係を築く傾向
アメリカの心理学者ジャネット・レバー氏が校庭での子どもの様子を観察した研究では、男の子は女の子に比べて20倍程度ケンカが多いという結果が報告されています。
しかし興味深いのは、男の子はケンカの数は多いがその後は良好な関係になる一方、女の子はケンカの数は少ないがその後の関係はかなり悪くなる傾向があるという点です。
男の子同士の取っ組み合いのような遊び(じゃれつき遊び)は、単なる乱暴な行動ではなく、コミュニケーションの一形態として機能している可能性があります。
女の子に多く見られる遊びの傾向
一方で、女の子に多いとされる遊びの特徴も見ていきましょう。
お世話遊びやごっこ遊びを好む傾向
女の子は人形やぬいぐるみのお世話をする遊び、おままごとのようなごっこ遊びを好む傾向が多くの調査で報告されています。
これは将来の育児能力を先取りして学んでいるとも解釈され、社会性やコミュニケーション能力を育む大切な遊びだと考えられています。
言葉を使ったじっくり型の遊び
女の子は少人数でじっくり会話をしながら遊ぶスタイルを好む傾向があるとされ、器用さや細やかな作業を要する遊び(お絵かき、折り紙、ビーズ通しなど)を好んで取り組む子が多いという報告もあります。
現役の小学校教諭へのインタビューでも、「器用さ」「適応力」という点では、女子にその力量がある子を多く見かけましたという現場の印象が語られています。
個人差の大きさを示す研究とデータ
ここまで男女それぞれの「傾向」を紹介してきましたが、最も重要なのは、これらはあくまで統計的な平均であり、一人ひとりの個人差のほうがはるかに大きいという事実です。
サルを使った実験からわかること
遺伝的な要因を検証するため、人間の文化的な影響を受けないサルを対象にした実験があります。
米ヤーキス国立霊長類研究所の研究チームがアカゲザルにおもちゃを与えた実験では、オス11頭はトラックのような車輪のついたおもちゃの元へ直行し、人形には見向きもしなかった一方、メス23頭は、両方のおもちゃにオス以上の興味を示し、両方で遊んだという結果が報告されています。
この結果は、メスのほうがオスよりも遊びの幅が広く、柔軟性があることを示唆しているとも読み取れます。

環境次第で遊び方は大きく変わる
一方で、環境の影響力の大きさを示す興味深い実験報告もあります。
ある認定こども園で11週間にわたって行われた調査では、4歳児クラスに男女どちらのパッケージかわからないよう配慮した18種類のおもちゃを用意したところ、男児は最初、人形やドールハウスを遠巻きに眺めていましたが、2週間後には人形を使ってお医者さんごっこをし、段ボールで人形の家を作るなどして、男女に関係なく遊ぶ姿が観察されました。
この実験を行った園の園長先生は「自由に安心して遊べる環境さえあれば、男女同じように遊びます」と述べています。
つまり、大人が「男の子だから」「女の子だから」という先入観でおもちゃを制限してしまうこと自体が、遊びの幅を狭めてしまう可能性があるのです。
社会でも進むジェンダーレスな遊びの広がり
こうした研究結果を背景に、社会全体でもおもちゃに対する考え方が変わりつつあります。
おもちゃ業界での変化
日本玩具協会が毎年開催している「日本おもちゃ大賞」では、2021年から「ボーイズ部門/ガールズ部門」の区分けが撤廃されました。
海外でも、カリフォルニア州で、従業員500人以上の大規模小売店に対して性別の明記のないおもちゃ売り場の設置を義務付ける法律が成立するなど、性別で区切らない売り場づくりが世界的に進んでいます。
国内の玩具メーカーでも、性別の枠にとらわれずに遊べる商品開発が活発になっています。
固定観念が芽生える時期にも要注意
子どものジェンダー観がいつ頃形成されるかについても研究が進んでいます。
京都大学などの研究グループが4〜7歳の子ども560組を対象に行った調査では、「優しい=女性」という固定概念は4歳ごろから、「賢い=男性」は7歳頃からみられることが明らかになりました。
0〜3歳の時期はまだこうした固定観念が形成される前の段階であり、この時期にさまざまな遊びに触れさせておくことが、将来の可能性を広げることにつながります。
「らしくない遊び」を心配しなくていい理由
「男の子なのに人形遊びばかり」「女の子なのに乱暴な遊びが好き」といった悩みを持つ保護者は少なくありません。
しかし、専門家の見解では、心配しすぎる必要はないとされています。
専門家が語る「らしさ」の多様性
小児科医への相談事例では、気のやさしいところがある男の子、べとべととくっつきあう関係が好きな男の子、乱暴な行為が好きでない男の子はどこにでもいて、それを否定せず、うまく生かして大きくなると、それがその子の性格のメリットになることが多いと説明されています。
同様に、木登りが好きな女の子、走り回ることが得意な女の子、相撲を取りたがる女の子というのもいて、ボーイッシュなところが魅力の女性に育つ可能性が大きいとも述べられています。
「その子らしさ」を否定せず、そのまま受け止めてあげることが何より大切です。
おままごとは男女問わず学びの多い遊び
浜松市の子育て支援サイトでも紹介されているように、おままごとは子どもにとって日常生活で最も身近な食事のマネごとであり、男女問わずにやりとりを楽しめる遊びです。
また、赤ちゃんのお世話をするお人形などは、下のきょうだいが生まれた子には、自分が受けた親からの愛情を感じ、小さなきょうだいへの思いやりを育むことにつながります。
性別に関わらず、こうした遊びを積極的に取り入れてみる価値は大いにあります。
おもちゃ選びで意識したいポイント
最後に、0〜3歳のお子さんのおもちゃを選ぶ際に意識しておきたいポイントをまとめます。
子ども自身の「好き」を優先する
おもちゃ選びに関する解説記事でも指摘されているように、子どもが幼い頃は、性別で分けられたおもちゃだから選ぶというよりも、そのおもちゃがその子にとって魅力的だから選んでいることがほとんどです。
色やカタチ、おもちゃの仕掛け、キャラクターの起用など、子どもはさまざまな要素でおもちゃを選んでいます。
パッケージの色や「男の子向け」「女の子向け」という表示にとらわれず、お子さんが実際に手を伸ばすものを尊重してあげましょう。
迷ったらジェンダーレス設計のおもちゃも選択肢に
近年は、性別を問わず楽しめるように設計されたおもちゃも増えています。
ドールハウスシリーズの中には、ドールの男女比がバランスよく設定されていたり、ハウスやクルマなどのデザインが男女共に好まれるものだったりと、世界観自体はとてもジェンダーニュートラルな商品もあります。
プレゼント選びに迷ったときや、きょうだいで共有できるおもちゃを探しているときには、こうした商品を検討してみるのもおすすめです。
ただし、無理に「ジェンダーレスなものを選ばなければ」と気負う必要はありません。
お子さんが心から楽しめるかどうかを一番の基準にしてください。
まとめ
男の子と女の子の遊びの傾向には、胎児期のホルモンの影響などによる一定の統計的な差があることが研究からわかっています。
男の子は乗り物や体を動かす遊びを好み、ケンカを通じて関係を築く傾向があること、女の子はごっこ遊びやお世話遊びを好み、言葉を使ったじっくり型の遊びを楽しむ傾向があることなどが報告されています。
しかし、こうした傾向はあくまで集団の平均であり、一人ひとりの子どもが持つ個人差のほうがはるかに大きいという点を忘れてはいけません。
認定こども園での実験が示すように、自由に安心して遊べる環境さえ整えば、子どもは性別にとらわれず伸び伸びと遊びを選びます。
0〜3歳という時期は、まだジェンダーに関する固定観念が芽生える前の貴重な期間です。
ぜひ「男の子だから」「女の子だから」という枠にとらわれすぎず、お子さんが本当に興味を持ったもの、夢中になれるものを大切にしてあげてください。
それこそが、お子さんの個性を伸ばし、育児をより豊かで楽しいものにしてくれるはずです。