公園やお友達との集まりで、我が子がおもちゃを貸せずに固まってしまったり、逆に取り上げてしまったりする場面に出会うと、「うちの子は意地悪なのかな」「このままで大丈夫かな」と不安になってしまいますよね。周りの視線が気になって、つい「貸してあげなさい!」と強く言ってしまった経験がある方も少なくないはずです。
実は、3歳前後の子どもが貸し借りでつまずくのは、発達の過程でごく自然に起こることです。「貸せない」のは性格の問題ではなく、脳と心が育っている証拠だと知るだけで、日々の関わり方がぐっと楽になります。この記事では、保育の現場で使われている考え方や発達心理学の知見をもとに、3歳児の貸し借り事情と、親子で無理なく「譲る力」を育てていくための具体的な関わり方を紹介します。
3歳児が貸し借りでもめる理由
まず知っておきたいのは、3歳前後の子どもにとって「貸す」という行為は、想像以上に高度なスキルだということです。
多くの子どもは2歳から3歳にかけて共有や交換という概念を少しずつ理解し始める段階にあり、この時期は自我の発達によって「自分のもの」という気持ちが強く出やすい時期でもあります。
多くの子どもは、2歳から3歳にかけて共有や交換といった概念を理解し始め、この時期は自我が発達し「自分のもの」という気持ちが強く出始めるため、おもちゃの取り合いが特に多くなります。
「自分のもの」という感覚が芽生える時期
2歳頃までは目の前のものに興味が移りやすく、あまり所有の概念がありませんが、3歳前後になると「これは自分のもの」という感覚がはっきりしてきます。
これは自我が順調に育っている証拠であり、決して悪いことではありません。
手放したものは戻らないと感じてしまう
3歳頃の子どもの多くは、いったん自分の手元を離れたものは、そのままなくなってしまうという感覚を持っています。
この時期の子どもの多くは、いったん自分の手元を離れたものは、そのままなくなってしまうと認識しており、おもちゃを手放したくないのはごく自然なことです。
大人にとっては「少し貸すだけ」でも、子どもにとっては「もう戻ってこないかもしれない」という不安と隣り合わせなのです。
言葉より先に体が動いてしまう
欲しいものが目の前にあると、気持ちが先に立ち、「かして」という言葉より先に手が伸びてしまうことも珍しくありません。
言葉よりも先に体が動いてしまい、ほしいものが目の前に見えると友だちよりもおもちゃに注目してしまう姿や、「かして」などの言葉がぱっと出てこない姿はよく見られます。
これは語彙や自己コントロール力がまだ発達途中であることによるもので、成長とともに少しずつ落ち着いていきます。

発達の視点で見る「自分のもの」意識
子どもの心の発達を理解する枠組みの一つに、心理学者エリク・エリクソンの発達理論があります。
エリクソンの発達理論によると、2歳から3歳は「自律性vs恥・疑惑」の段階にあたり、自分でやりたい気持ちとうまくできない現実のギャップに揺れ動く時期です。
自律性が育つ時期だからこそ揺れ動く
「自分でやりたい」「自分の思い通りにしたい」という気持ちが強く育つ一方で、それがうまくいかないもどかしさも抱えているのがこの時期の特徴です。
貸し借りの場面で泣いたり抵抗したりするのは、まさにこの自律性の発達が表れている瞬間だと考えると、少し見方が変わってきますね。
2歳から7歳頃までは「自己中心性」の時期
発達心理学では、2歳から7歳くらいの子どもには自己中心性という特徴があるとされ、常に自分の視点を中心にして周りの世界を見ていると説明されます。
相手の気持ちを想像する力はこれからじっくり育っていくものなので、3歳の時点で「相手の気持ちを考えて譲る」ことができなくても、発達的にはごく自然な姿です。
無理に「貸しなさい」と強制することは、自律性の発達を阻害してしまう可能性があるとも指摘されています。
この時期に無理やり「貸しなさい」と強制すると、自律性の発達を阻害し、「恥」や「疑惑」の気持ちを強めてしまう可能性があります。
焦らず、子どものペースを尊重する関わりが大切です。
保育所保育指針が示す3歳児の成長
家庭だけでなく、全国の保育現場でも3歳児の社会性の育ちは大切なテーマとして扱われています。
厚生労働省が定める保育所保育指針では、3歳以上児の保育に関するねらいとして、友だちに親しみを感じ、安心して活動できるようになることなどが示されています。
保育現場で育まれる「分け合う」経験
保育の実践現場では、3歳を過ぎた頃から友だちと遊ぶ楽しさが分かるようになり、保育者の仲立ちを通して簡単なルールを守れるようになっていく様子が報告されています。
3歳を過ぎると社会性が芽生え、保育者にべったりだったのが友だちと遊びたいと思うようになり、保育者が仲立ちすることで分け合う、順番、貸し借り、交代など簡単なルールを守って遊べるようになってきます。
トラブルも成長のステップとして捉える
同時に、自分の要求をうまく言葉にできず、思いが伝わらないことでトラブルになる場面もあると記録されています。
自分の要求を言葉や態度、表情で訴えるようになる一方で、思いが相手に伝わらなかったり自分の思いを優先したりしてトラブルになることも見られます。
保育の専門家がこうした姿を「成長の過程」として捉えているように、家庭でも同じ視点を持つことが安心につながります。
詳しい指針の内容はこども家庭庁の保育所保育指針でも確認できます。
貸し借りができる子とできない子の差
同じ3歳でも、すんなり貸し借りができる子と、なかなか難しい子がいます。
この差は性格の良し悪しではなく、経験の積み重ね方や環境によるところが大きいと考えられています。
集団での経験量による違い
保育園など同世代の子どもと過ごす時間が多い環境では、自然と「かして」「どうぞ」のやり取りを経験する機会が増えます。
反対に、同世代との関わりが少ない環境では、貸し借りの経験自体が不足しがちです。
数人から少人数での同世代とのかかわりが少ないことも、貸し借りが難しい背景の一つとして挙げられます。
失敗体験が影響していることも
過去に「貸して」と言っても貸してもらえなかった経験が強く残っていると、次第に貸し借りそのものに苦手意識を持ってしまうことがあります。「貸して」といっても貸してくれなかった、という失敗体験が強く残っているケースも見られます。
うまくいかなかった経験を否定せず、次にうまくいく経験を少しずつ積み重ねていくことが大切です。
「貸せない」姿を叱る前に知っておきたいこと
3歳児にとっての貸さない理由は、意地悪な気持ちからではなく、恥ずかしさやどう反応してよいか分からない戸惑いから来ていることが多いとされています。
3歳児にとっての貸さない理由は、恥ずかしい、どうしたらいいか分からない、今のタイミングでは貸せないといった、意地悪的な気持ちというよりはどう反応したらいいのか未だよく分からないところから来ると考えられています。
「うちの子は意地悪だ」と決めつけて叱ってしまうと、自己肯定感を下げてしまう恐れがあるため注意が必要です。

今日から使える声かけの具体例
ここからは、貸し借りの場面で親がすぐに使える声かけの工夫を紹介します。
大切なのは「貸しなさい」と結果を強要するのではなく、子どもが自分で気持ちを整理する手助けをすることです。
気持ちを代弁してあげる声かけ
「今はまだ使いたいんだよね」「取られちゃうんじゃないかって心配なんだね」など、子どもの気持ちをそのまま言葉にしてあげることで、子どもは自分の気持ちを理解してもらえたと感じ、落ち着きやすくなります。
無理に譲らせようとする前に、まずは共感の言葉をかけてみましょう。
「かして」「どうぞ」を一緒に練習する
実際のトラブル場面ではなく、普段の遊びの中で「かして」「どうぞ」のやり取りをごっこ遊びのように練習しておくと、いざという時に言葉が出やすくなります。
側にいる大人が「お友だちが貸してほしいって、どうする?何て言おうか」と声をかけてサポートすることも効果的です。
側にいる大人が「お友だちが貸して欲しいって、どうする?何て言おうか?」などと声をかけサポートしてあげるのもよい方法です。
選択肢を用意して自分で選ばせる
「今すぐ全部貸す」か「全く貸さない」かの二択ではなく、「あと1回やったら交代する?」「これなら一緒に使える?」など、子どもが自分で選べる選択肢を用意すると、納得感を持って行動しやすくなります。
子ども自身が選んだという感覚を持てることが、次の貸し借りへの意欲につながります。
公園やお友達親子で使える工夫
外出先や友達親子との集まりでは、事前の工夫でトラブルをぐっと減らすことができます。
お気に入りのおもちゃは持ち込まない
特別お気に入りのおもちゃは、まだ貸すことに抵抗が強い場合が多いため、大勢で集まる場には持って行かない、あるいは事前に「今日は貸したくないから家に置いていこうね」と約束しておくのも一つの方法です。
無理に持ち込んで貸し借りを強いる必要はありません。
「一緒に遊ぶ」から始めてみる
いきなり貸し借りを求めるのではなく、まずは同じ空間で並行して遊ぶ「並行遊び」や、同じおもちゃを二人で一緒に使う遊び方から始めると、子どもにとってハードルが下がります。
焦らず段階を踏むことが、結果的に譲り合いの力を育てる近道になります。
トラブルになったときの大人の立ち位置
子ども同士のトラブルは、成長のチャンスと捉えて温かく見守ることも大切です。
友だちとの間に小さなトラブルがあった場合も、子どもが成長するチャンスとして捉え、子どもが選んだ言葉や気持ちの表現を尊重することが大事です。
両者の気持ちを聞き、大人がすぐに結論を出すのではなく、子ども自身が考える時間を少し与えてあげましょう。

やってはいけないNG対応
良かれと思ってやってしまいがちな対応の中にも、実は逆効果になるものがあります。
頭ごなしに叱る・比較する
「どうしてお友だちに優しくできないの」「〇〇ちゃんはちゃんと貸せるのに」といった比較や叱責は、子どもの自己肯定感を下げるだけでなく、貸し借りそのものへの苦手意識を強めてしまう可能性があります。
人前で叱ることは、子どもに恥ずかしさや自己否定感を植え付けるリスクがあるため避けましょう。
大人が勝手におもちゃを取り上げる
「ちょっと貸すだけだから」と大人が一方的におもちゃを取り上げて相手に渡してしまうと、子どもは自分の意思を無視されたと感じ、かえって物への執着を強めてしまうことがあります。
貸し借りは子ども自身が納得して選ぶプロセスが何より重要であることを忘れないようにしましょう。
貸し借りを通じて育つ力
貸し借りの経験は、単に「物を分け合う」以上に多くの力を育みます。
相手の気持ちを想像する力
貸し借りやトラブルを繰り返す中で、子どもは少しずつ「自分と違う気持ちを持つ人がいる」ということに気づいていきます。
友だちとかかわって遊ぶことで、友だちの話を最後まで聞くことができ、相手には自分と違う思いがあることを感じることもできるようになってきます。
この気づきこそが、思いやりの土台になります。
自分の気持ちを言葉で伝える力
「かして」「いやだ」「あとでね」といった短い言葉のやり取りを重ねることで、感情を言葉に変換する力が育っていきます。
3歳児は喜怒哀楽を表現できるようになり、自分の感情を言葉で伝える力が伸びていく時期であり、まだ感情的になりやすく気持ちの切り替えが難しい面もあります。
焦らず繰り返し経験させてあげることが大切です。
ルールを守る規範意識
順番や交代といった簡単なルールを経験することは、社会の中で生きていくための規範意識の土台になります。
自分の気持ちが尊重されることで、相手の気持ちを尊重しルールを守る大切さを理解できるようになり、規範意識の発達には「個」の尊重が欠かせません。
まずは子どもの気持ちをしっかり尊重することが、結果的に譲り合える心を育てる近道なのです。
よくある質問(FAQ)
Q. いつになったら貸し借りができるようになりますか
個人差が大きく、一概には言えませんが、多くの場合4歳から5歳頃にかけて相手の気持ちを想像する力が育つにつれ、少しずつ自然に貸し借りができるようになっていきます。
3歳の時点でできなくても焦る必要はありません。
Q. 貸せない我が子を見て周りの目が気になります
多くの保護者が同じ悩みを抱えています。
貸せないことは発達の自然な過程であり、恥ずかしいことでは決してありません。
周囲に「今、育ち中なんです」と一言添えるだけでも、気持ちが楽になることがあります。
Q. きょうだいでも同じように対応してよいですか
基本的な考え方は同じですが、きょうだいの場合は年齢差による関わり方の違いも意識するとよいでしょう。
上の子にばかり我慢を強いず、それぞれの気持ちを丁寧に聞くことが、きょうだい関係を良好に保つポイントです。
まとめ
3歳前後の子どもがおもちゃを貸せない、譲れないという姿は、決して困った性格やわがままではなく、自我と社会性が順調に育っている証です。
「貸しなさい」と結果を急がせるのではなく、子どもの気持ちに寄り添いながら「かして」「どうぞ」の経験を少しずつ積み重ねていくことが、譲り合う心を育てる一番の近道です。
保育の現場でも、トラブルは成長のチャンスとして温かく見守られています。
おうちでも同じように、うまくいかない日があっても大丈夫だと構えておくことで、親子ともに肩の力を抜いて過ごせるはずです。
今日の小さな「かして」「どうぞ」の一言が、お子さんの優しさの種になっていきます。
焦らず、その子のペースを大切にしながら、貸し借りの経験を親子で楽しんでいってくださいね。