「昨日と同じ絵本をまた持ってきた・・・」「この絵本ばかりで飽きないのかな?」1歳前後のお子さんを育てていると、そんな場面に何度も出会うのではないでしょうか。実はこれ、多くのご家庭で見られるとても自然な成長の証です。同じ絵本を繰り返しせがまれると大人はつい別の本を勧めたくなりますが、そこには子どもなりの理由があります。この記事では、1歳児に「お気に入り絵本」ができる時期の目安や、繰り返し読みが子どもの心と言葉の発達にどう関わっているのかを、公的な調査データや専門家の見解を交えながらわかりやすく解説します。読み終える頃には、毎日のエンドレス読み聞かせが少し愛おしく感じられるはずです。
1歳児にお気に入り絵本ができる時期
絵本への好みがはっきりと現れ始めるのは、多くの場合1歳前後からといわれています。
この時期は言葉の理解が急速に進む段階と重なっており、絵本の内容や言葉のリズムに反応できるようになることが背景にあります。
「同じ絵本ばかり欲しがる」という行動そのものが、言葉や物事の理解が着実に育っている証拠だと考えると、見え方が変わってくるかもしれません。
言葉の理解が進む時期との重なり
厚生労働省の調査によると、1歳0カ月から1カ月で36.5%、1歳5カ月から6カ月には86.9%の子どもが単語を口にするようになると報告されています。
単語を話し始める時期は個人差が大きいものの、多くの子が1歳前後から言葉への感度を高めていくことがわかります。
絵本の中の繰り返しフレーズやオノマトペに反応し始めるのも、ちょうどこの時期と重なります。

個人差が大きいことを前提に考える
お気に入りの絵本ができる時期には大きな個人差があります。
早い子では生後10か月頃から特定の絵本に反応を示すこともあれば、1歳半を過ぎてから好みがはっきりしてくる子もいます。
「うちの子はまだお気に入りがない」と焦る必要はまったくありません。
絵本との出会い方や生活リズムによっても現れ方は変わってきます。
なぜ同じ絵本を繰り返し読みたがるのか
子どもが同じ絵本を何度も欲しがる理由は、単なる「わがまま」ではありません。
発達心理の観点から見ると、そこにはいくつかの重要な意味があります。
「予測できる安心感」を求めている
子育て相談の現場では、子どもは気に入った刺激や情報を繰り返し感じて楽しむことで、ものごとを理解する力や興味を掘り下げていく力が育っていくと説明されています。
次に何が起こるかをあらかじめ知っている安心感は、大人が想像する以上に子どもにとって心地よいものなのです。
言葉を「自分のもの」にしようとしている
1歳代の子どもについては、「言葉を自分のものにしようとしている」という目的が加わっていると考えられており、繰り返しを楽しんでいる子どもはよりスピーディーに、より高度に発達していこうとしていると指摘されています。
同じ絵本を何度も読むことは、同じ単語やフレーズに繰り返し出会う機会をつくり、言葉の定着を後押ししていると考えられます。
物語の世界を「支配」する喜び
展開を覚えていることで、子どもは絵本の世界の主人公になったような感覚を味わえます。
都の生涯学習情報でも、子供は本の中で主人公になりきって冒険にわくわくし、リズミカルな言葉に心を躍らせ、読めば読むほど楽しさが増して本が自分のものになっていくと説明されています。
繰り返しは「飽き」ではなく「深まり」のプロセスだといえるでしょう。
繰り返し読みが育む3つの力
同じ絵本を何度も読むことには、実は科学的な裏付けもあります。
ここでは代表的な3つの効果を紹介します。
語彙力・言葉の理解力
読み聞かせと語彙力の関係については、複数の研究で報告されています。
東北大学の川島教授を代表とする研究では、読み聞かせをされた子はされていない子と比べて3倍相当の語彙の伸びがみられたという結果が明らかになりました。
また同じ絵本を繰り返し読んでもらうことについても、同じ本を繰り返し読んでもらった子のほうが、新しい単語をより覚えやすかったという研究結果が示されています。
同じ絵本を繰り返し読むことは、決して非効率な読み聞かせではなく、むしろ語彙の定着に有利な方法だと考えられているのです。

愛着形成・情緒の安定
読み聞かせは語彙だけでなく、親子の情緒的なつながりにも良い影響を与えるとされています。
週に2〜3日、1回10〜20分程度の読み聞かせをしただけでも、親子の愛着関係が強まったという研究結果が報告されています。
毎日たくさん読まなければ意味がない、というわけではなく、短時間でも続けることに価値があるという点は、忙しい毎日を送る保護者にとって心強いポイントです。
認知能力・集中力の土台
読み聞かせは注意力や記憶力といった認知面の発達にも関わっています。
京都府立大学の研究では、家庭での読み聞かせ頻度によって保育園などの集団での読み聞かせがもたらす効果が変化し、語彙力やワーキングメモリーなど高次の認知能力を向上させうることが示されました。
繰り返し同じ絵本に集中する経験は、後の読書習慣や学習への土台づくりにもつながっていくと考えられます。
お気に入りがまだできないときの考え方
周りの子が特定の絵本に夢中になっている様子を見ると、「うちの子はどの絵本にも興味を示さない」と不安になる方もいるかもしれません。
しかしこれは、多くの場合心配のいらないことです。
絵本の「与えすぎ」も一因になりうる
子育て相談の現場では、子どもがひとつの絵本を選び取るには「繰り返し」の経験が必要であり、子どものためにと大人が多くの種類の絵本を読んであげる必要はなく、子どもはひとつの絵本に満足したら自然に次の絵本を求めていくと説明されています。
毎日違う絵本を用意することが必ずしも良いとは限らず、絵本棚に置く冊数を絞ってみることで、お気に入りが見つかりやすくなる場合があります。
健診での発達の目安も参考に
言葉の発達については個人差が大きいことが前提ですが、目安を知っておくと安心材料になります。
厚生労働省の調査では、1歳6〜7か月未満の子どものうち90%以上がひとつ以上の単語を話すことが分かっています。
ただし発達する進度は個人差が大きいため、周りと比べすぎるのはよくないとされています。
1歳半健診などの機会に相談しながら、お子さんのペースを見守っていきましょう。
言葉の発達に強い不安がある場合は、自己判断せず自治体の健診や小児科で相談することが大切です。
1歳児のお気に入りになりやすい絵本の特徴
どんな絵本が1歳児のお気に入りになりやすいのか、傾向を知っておくと絵本選びの参考になります。
言葉のリズムと繰り返しがある
1歳児は繰り返しの言葉のリズムのある絵本を好む傾向があります。
実際に保育の現場でも、1歳児は繰り返しの言葉のリズムのある絵本が大好きで、同じ言葉が繰り返し出てくると一緒に声に出して楽しむ様子が見られると報告されています。
オノマトペを使った短いフレーズは、真似しやすく言葉の発達を促す点でも相性が良いとされています。
身近な生活場面が描かれている
食事や着替え、お昼寝といった生活の一部を描いたものや、身近な自然、生き物を描いた絵本が1歳児の心に届きやすいとされています。
自分の日常と絵本の内容が重なることで、より親しみを持ちやすくなるようです。
触って楽しめる「しかけ」がある
めくる、押す、スライドさせるといった直感的な操作ができるしかけ絵本も人気があります。
1歳児は気に入った絵本を何度も何度も繰り返し読みたがり、保育園でも人気の絵本はボロボロになるまで読まれるほど愛されていると紹介されています。
指先を使うしかけ絵本は、遊びながら手先の発達も促してくれる点も見逃せない魅力です。

繰り返し読みで気をつけたいポイント
お気に入りの絵本との付き合い方には、いくつか気をつけたいポイントもあります。
大人の「飽き」を子どもに押し付けない
何十回、何百回と同じ絵本を読んでいると、大人はどうしても飽きてしまいます。
しかし東京都の生涯学習情報でも触れられているように、子供は本の中で主人公になりきり、読めば読むほど楽しさが増していくものです。
つらいときは無理をせず、少しアレンジを加えたり、別の家族に読み手を交代してもらったりする工夫も有効です。
絵本を無理に切り上げない
もう終わりにしたいのに何度も「もう一回」とせがまれる場面もあるでしょう。
そんなときは、絵本を読み終えるタイミングをあらかじめ子どもに伝えておく、次の楽しい活動につなげるなど、工夫次第で切り上げやすくなります。
無理に絵本を取り上げると絵本自体への苦手意識につながる場合があるため、できるだけ子どものペースを尊重しましょう。
お気に入り絵本の見つけ方と広げ方
お気に入りが決まった後も、少しずつ絵本の世界を広げていく工夫ができます。
図書館や絵本専門士のサポートを活用する
絵本文化推進協会でも紹介されているように、絵本は一度読んで終わりではなく、成長に合わせて何度でも出会い直せる本です。
図書館では絵本専門士や司書が年齢に合った絵本を紹介してくれることも多く、自宅の絵本棚だけでは出会えない一冊に巡り合えるチャンスがあります。
お気に入りの延長線上で選ぶ
今好きな絵本と似た雰囲気の作品を選ぶのも一つの方法です。
同じキャラクターが出てくる別の絵本や、同じ作者による絵柄の雰囲気が似た作品には興味を持ちやすいとされています。
今のお気に入りをヒントにすることで、次の一冊選びのハードルがぐっと下がります。
読み聞かせを楽しく続けるための工夫
毎日の読み聞かせを負担に感じすぎず、親子で楽しめる関わり方を大切にしたいものです。
完璧を目指さなくてよい
読み聞かせの効果に関する研究では、語彙力を豊かにするためには読み聞かせを定期的に行うのが望ましく、重要なのは完璧を目指すことではなく細く長く続けることだとされています。
毎日長時間読めなくても、短い時間を積み重ねていくことに意味があります。
反応を急かさず見守る
絵本を読んでいるときの子どもの反応は、笑う・じっと見つめる・声を出すなどさまざまです。
反応が薄いように見えても、耳ではしっかりと言葉を吸収していることが多いため、焦らず見守る姿勢が大切です。
同じ絵本を繰り返す中で、少しずつ反応が変化していく様子そのものが、子どもの成長を実感できる貴重な瞬間になります。
まとめ
1歳前後は言葉の理解が進み、お気に入りの絵本ができ始める子が多い時期です。
ただし、その時期には大きな個人差があり、早い遅いを気にしすぎる必要はありません。
同じ絵本を繰り返しせがむ行動は、子どもが「予測できる安心感」を求め、「言葉を自分のものにしよう」としている、成長のサインです。
繰り返し読みには語彙力の向上や親子の愛着形成、集中力の土台づくりなど、多くのメリットがあることが研究でも報告されています。
「また同じ絵本?」と感じる瞬間も、実は子どもがぐんぐん伸びている証拠かもしれません。
今日のエンドレス読み聞かせも、お子さんの大切な成長の一コマとして、少し肩の力を抜いて楽しんでみてください。
