赤ちゃんとおもちゃを「どうぞ」「ちょうだい」しあうやりとりは、多くの親御さんが心待ちにしている成長のサインのひとつです。ある日突然、赤ちゃんが自分から小さな手でおもちゃを差し出してくれた瞬間、思わず涙が出そうになったという声も少なくありません。一方で「うちの子はまだできない」「教え方が分からない」と不安になる方も多いはず。この記事では、どうぞ・ちょうだいができるようになる時期の目安から、発達の背景、月齢に合わせた遊び方、なかなかできない時の考え方まで、育児の現場で役立つ情報を網羅的にまとめました。
「どうぞ」「ちょうだい」ってどんな行動?
「どうぞ」「ちょうだい」のやりとりは、単なる物の受け渡しではありません。
相手に物を渡す、相手から物を受け取るという行為の中に、「相手の存在を意識し、気持ちを共有する」という社会性の芽生えが詰まっています。
赤ちゃんにとってこの遊びは、言葉を話す前段階のコミュニケーション手段であり、後の会話や協調性につながる大切なステップとされています。
大人と赤ちゃんの間で成立する対人関係の第一歩
お座りが安定してくると、赤ちゃんは向かい合わせで大人とやりとりする遊びを楽しめるようになります。
おすわりできるようになると、向かい合ってやりとりする遊びができるようになり、こんなおすわり期の赤ちゃんにおすすめなのが「はいどうぞ」「今度はママにもちょうだいね」という遊びです。
相手がいるからこそ成立する遊びなので、赤ちゃんがはじめて対人関係を学ぶきっかけになります。
言葉が話せなくても伝わる「意志表示」
まだ言葉を話せない赤ちゃんにとって、「どうぞ」と手を伸ばす動作や「ちょうだい」に応じて物を渡す動作は、立派な自己表現です。
身振りやジェスチャーは、言葉を獲得する前の赤ちゃんの「意志」を表すコミュニケーション手段として捉えることが大切です。
周囲の大人がこうした行動に丁寧に反応してあげることで、赤ちゃんは「自分の気持ちが相手に伝わった」という成功体験を積み重ねていきます。

いつから始まる?月齢別の発達目安
「どうぞ・ちょうだい」ができるようになる時期には個人差がありますが、発達の流れとしておおよその目安を知っておくと、遊びに取り入れるタイミングをつかみやすくなります。
生後6〜7か月頃:遊びの土台となる喃語期
生後6、7カ月ごろの赤ちゃんは「んま」「あじゃ」などの喃語をはっきりと話せるようになります。
喃語自体には意味はありませんが、赤ちゃんが自分の気持ちを伝えるための立派なコミュニケーション手段であり、この時期から言葉を使ったやりとり遊びを少しずつ取り入れていくのがおすすめです。
生後9〜11か月頃:指差しと共同注意の発達
この時期は、赤ちゃんの社会的なコミュニケーション能力が大きく伸びるタイミングでもあります。
個人差はありますが、赤ちゃんは生後9ヶ月ごろから指差しをするようになり、十分に言葉を話すことのできない子どもにとって指差しは大切なコミュニケーションの手段です。
この時期の指差しに対して親が反応することで、赤ちゃんは「自分の意思が相手に伝わった」という経験をし、これが共同注意と呼ばれる社会的認知の基盤となり、その後のコミュニケーション発達に重要な影響を与えます。
この共同注意の力は、「どうぞ・ちょうだい」のやりとりを理解する土台にもなっています。
1歳前後〜1歳半頃:自分から「どうぞ」ができるように
1歳前後になると、大人とのやりとりを繰り返す中で意味を理解し始め、自分から物を差し出す行動が見られるようになる赤ちゃんが増えてきます。
声かけをしながらおもちゃを渡したり受け取ったりすることを繰り返すうちに、赤ちゃんがやりとりの意味を理解し、自分から「どうぞ」ができるようになっていきます。
ただし上手にできるようになる時期には大きな個人差があるため、周りの子と比べて焦る必要はありません。

できるようになる前兆となるサイン
「どうぞ・ちょうだい」が急にできるようになるわけではなく、その前段階として見られるいくつかのサインがあります。
指差しで欲しいものを伝える「要求の指差し」
1歳2ヶ月頃になると「要求の指差し」が発達し、欲しいものや行きたい場所を指差して要求するようになり、これは赤ちゃんの意思表示の手段として重要な役割を果たします。
欲しい物を指差して大人に伝えられるようになると、次のステップとして「ちょうだい」の意味も理解しやすくなっていきます。
物の名前と結びつける「叙述の指差し」
1歳頃になると、赤ちゃんは指差しを使って物の名前を尋ねたり、自分が知っている物を示したりする「叙述の指差し」ができるようになります。
例えば犬を見て「ワンワン」と言いながら指差したり、飛行機を見つけて指差したりする行動が見られたら、言葉と物の理解が着実に進んでいる証拠です。
周囲への関心と人まねの発達
大人の動作を真似しようとする「模倣」の芽生えも、どうぞ・ちょうだいの理解につながる重要なサインです。
パチパチ手を叩く、バイバイをするなどの身振りが増えてきたら、やりとり遊びを積極的に取り入れる良いタイミングといえます。
上手な教え方・声かけのコツ
どうぞ・ちょうだいは特別な練習をしなくても、日々の関わりの中で自然に育っていくものです。
無理に教え込もうとせず、遊びの延長として楽しむ姿勢が何より大切です。
「どうぞ」の場面での声かけ例
赤ちゃんの好きなおもちゃを目の前に差し出して「はい、どうぞ!」と声を掛け、赤ちゃんが自分から手を伸ばして受け取るのを待つのが基本の形です。
上手に受け取ることができたら「できたね!」「お手手でつかめたね」とほめてあげることで、赤ちゃんは達成感を感じ、次の意欲につながります。
「ちょうだい」の場面での声かけ例
反対に、赤ちゃんが持っているおもちゃに手を伸ばして「ちょうだい」と優しく声をかけ、渡してくれたら大げさなくらいに褒めてあげましょう。
最初のうちは手を出す真似だけで渡さなくても、それも立派な反応の一つです。
完璧にできることを求めず、小さな仕草にも反応してあげることが上達への近道です。
焦らず個人差を受け止める姿勢
できるようになる時期は子どもによって大きく異なります。
周りの大人がお手本として繰り返し見せてあげ、できなくても褒める、少しでもやろうとする仕草が見えたら大げさに喜ぶという関わり方を続けることで、赤ちゃんは自分のペースで身につけていきます。

月齢別おすすめの遊び方
どうぞ・ちょうだいの遊びは、月齢に合わせて内容を工夫することで、より効果的に楽しく取り入れることができます。
お座り期(生後7〜9か月頃)のおすすめの遊び
- ガラガラや布製ボールなど、握りやすいおもちゃで「どうぞ」の練習
- 向かい合って座り、おもちゃを転がして渡し合う
- 「どうぞ」「ありがとう」の言葉をセットで繰り返し聞かせる
はいはい〜つかまり立ち期(生後9〜12か月頃)のおすすめの遊び
- 積み木やブロックを一つずつ手渡ししながら積み上げる遊び
- 絵本の読み聞かせ中に「ちょうだい」と声をかけてページをめくらせる
- 親子で交互に物を渡し合う「順番」の感覚を養う遊び
1歳〜1歳半頃のおすすめの遊び
- お人形やぬいぐるみに「どうぞ」してあげるごっこ遊び
- 家族や兄弟姉妹を交えて三人以上でおもちゃを回す遊び
- おままごとセットを使い、食べ物を渡し合う遊び
いずれの遊びも、「渡す」「受け取る」の動作そのものよりも、やりとりの楽しさを共有することを意識すると、赤ちゃんも大人も自然と笑顔になれます。
なかなかできない時の対処法
周りの子はできているのに自分の子はまだできない、と感じると不安になるものです。
しかし発達のスピードには大きな個人差があることを忘れないでください。
おもちゃを離さない・投げてしまう場合
赤ちゃんによってはおもちゃが気になって渡してくれなかったり、おもちゃを投げたりすることがありますが、最初からスムーズにできなくても焦らず、楽しみながらやってみることが大切です。
物への執着が強い時期は誰にでもあるため、無理に手を離させようとせず、他のおもちゃで気を引きながら気長に取り組みましょう。
練習が「芸」にならないようにする工夫
できるようになってほしいという気持ちが強くなりすぎると、つい何度も同じ動作を求めてしまいがちです。
しかしどうぞ・ちょうだいは芸として教え込むものではなく、赤ちゃんの自然な意志表示として育まれるものだと捉える視点が大切です。
まずは周りの大人が手本を見せ、できなくても褒める、少しでも仕草が出たら大げさに喜ぶという関わりを続けることで、子どもは自分のペースで習得していきます。
健診でのチェックポイントと相談先
日本では、乳幼児健康診査を通じて発達の様子を確認する機会が設けられています。
育児の不安を一人で抱え込まず、こうした機会を上手に活用しましょう。
1歳6か月児健康診査で確認される内容
多くの自治体では、1歳6か月児健康診査の問診票に、有意語の有無や指差し、模倣行動などに関する質問項目が設けられています。
健診はあくまで発達の目安を確認する機会であり、その場でできなかったからといって過度に心配する必要はありません。
気になる点があれば、健診時に保健師や医師に率直に相談してみましょう。
母子健康手帳を活用した記録のすすめ
母子健康手帳には発育・発達の記録欄が設けられており、日々の小さな成長を書き留めておくことができます。
母子手帳とは、お母さんとお子さんの健康記録として活用するためのもので、妊婦健診・出産の記録、お子さんの発育記録、予防接種記録などが記入できます。「どうぞ」ができた日、「ちょうだい」に応えてくれた日をメモしておくと、後から見返した時にかけがえのない思い出になります。
母子健康手帳に関する詳しい情報は、こども家庭庁の公式ページでも確認できます。
不安が続く場合の相談窓口
指差しや身振りが極端に少ない、名前を呼んでも反応が薄いなど、複数の気になるサインが重なって続く場合は、自己判断せずに自治体の保健センターや小児科、発達相談窓口に相談することをおすすめします。
一つの行動ができないことだけをもって発達の遅れと判断することはできません。
専門家に相談することで、必要な支援や関わり方のヒントを得られる場合があります。
遊びを通して育つ心の発達
どうぞ・ちょうだいの遊びは、単なる物の受け渡し以上の意味を持っています。
この繰り返しの中で、赤ちゃんはさまざまな力を育んでいきます。
順番を待つ・分かち合う気持ちの芽生え
渡す、受け取る、また渡すという繰り返しの中で、赤ちゃんは「順番」や「分かち合い」の感覚を少しずつ体験していきます。
これは将来、友達とおもちゃを共有したり、順番を守ったりする力の土台になります。
指先の巧緻性と言葉の発達への波及効果
物を掴んで渡す、受け取って握るという動作は、指先の細かい動きの発達にもつながります。
また喃語とはコミュニケーションをとろうとする第一歩であり、この時期にたくさんの語彙を教えてあげることで、それを話そうとする赤ちゃんの意志の表れにつながるとされており、どうぞ・ちょうだいの声かけを繰り返すことは、言葉の発達を後押しする働きも期待できます。
まとめ
赤ちゃんの「どうぞ・ちょうだい」は、生後6〜7か月頃の喃語期から始まり、生後9〜11か月頃の指差しや共同注意の発達を経て、1歳前後から少しずつ自分の意志で行えるようになっていくのが一般的な流れです。
ただしできるようになる時期には大きな個人差があるため、周りと比べず、赤ちゃん自身のペースを見守ってあげることが何より大切です。
日々の遊びの中で「どうぞ」「ちょうだい」の声かけを繰り返し、できた時には大げさなくらいに褒めてあげることで、赤ちゃんは着実に社会性やコミュニケーション力を育んでいきます。
もし発達について気になることがあれば、一人で抱え込まず、乳幼児健診や保健センターなど身近な相談先を頼りながら、親子で一緒に成長を楽しんでいってください。